すこし前から「ティール組織を作りたい」という要望を受けるようになりました。
いい組織を作りたい、という気持ちは多くの経営者や人事部門、経営企画部門の方が持っているようです。
それでクライアントさん達といっしょに試行錯誤をしながら、「いい組織チームを作ろう」と努力してきたのですが、その経験を通じて、いくつか「ティール組織づくり」の、大切なポイントがわかってきました。今日は、その一つをお話ししようと思います。
ティール組織とは?
ティール組織は、「社員スタッフが、自分で考え動く組織。自立した組織づくり」と紹介されることが多いでしょうか。一人一人が自分の頭でで考え、誰かが指示管理しなくても、動ける。高い生産性を実現する組織です。
本を読むとポイントは、
「自立した組織運営」「フラットな組織の形」「スタッフを人間としてみる風土」「目的を大切にすること」といった点が上げられています。
(多くの現場はいつでも「社員は勝手に育って、勝手に仕事をしてほしい」と思っていることが多いので、そこにハマるのかなとも思います!)
でも、ティール組織作りに踏み出す時に、どこかに「決まったやり方マニュアルがあって、それををマネればできる」と思っていると、うまくいきません。
実際、ティール組織の著者フレデリック・ラルーも「著書『ティール組織』は、マニュアルを作りたくて書いた本じゃない」といっているよう。「この通りにやればできる」たぐいのものではないのです。
では、どうしたらいいのでしょうか?
鍵は、あります。
それは「ひとつひとつの『やり方』」ではなくて、大元で持つ「問い」や、会社トップの「意識の成長」を中心に置くことです。
ゼロから、「ティール組織」を作った人たち
フレデリック・ラルーが「ティール組織」の本を書いてくれたおかげで、「ティール組織の作り方」・方向性がおぼろげながらも、見えてきました。
でも、ティール組織に限らず、組織マネジメントの問題が「何かの解決策をステップ・バイ・ステップに実行すれば、一発で解決する」ことはありませんよね。
では、ティール組織づくりのヒントはないのかというと、そんなことはありません。
大事なのは、アイデアではなくて、「適切な問い」を持つことだと思います。
ラルーが「ティール組織」を書く前から、その後「ティール組織」と呼ばれることになる、先進的ないい組織チームはありました(だから本ができたわけです)。
では、そういう組織を作った人たちは、何もヒントがない中で、どうやって「ティール組織」を作ったのでしょうか。
それは、
「人が、人としていきられる組織を作るにはどうしたらいいのだろう」
「働く人が、イキイキと働ける組織にするにはどうしたらいいだろう」
そういう問いを持って、その問いから生まれた「アイデア」をひとつひとつ実行してきたのです。
例えば、何かの本を読んで・・・
○「スタッフに、指示管理をすればいい」という知識を得たとします。
それで、翌日「会社の中の階層」をなくし、ある日突然、誰も指示も管理もしなくなったらどうなるでしょうか。社員やスタッフさんは、イキイキと仕事をしはじめるか。必要な混乱なのかもしれないけれど、きっと大きな混乱があるでしょうし、生産性が下がり、会社は大きな傷を負うかもしれません。「もう、イヤだ!」という、トラウマ的な傷を。
そう考えると、たとえば、ある部門だけ実験的に指示をなくして段階的にそれを広げていく、というアイデアが出るかもしれません。
問いを持っているから、短絡的に考えず工夫が生まれてきます。
あるいは別の人が・・・
○「スタッフが、職場で安心できるよう、意見交換のミーティングを開催しよう」としたとします。
けれど、突然の「意見を聞かせてミーティング」なんて、戸惑う人も多いでしょう。
「自由に話していいよ」といくら伝えても、リスクを感じれば本心なんて話せません。結局、思うようにミーティングで発言がなく、いつの間にか「こんなミーティングやっても意味がない」と取り組みがなくなるかもしれない。期待していた分、落胆も大きいかも。
もちろん、知識やノウハウは確かに参考になります。
でも、大事なのは、過去誰かが行なったノウハウそのものではないのです。
ティール組織は、「どうして会社の中で人は、抑圧されながら生きなければいけないのだろう」と問いを持った人たちがいて、生まれました。
こういった「問い」は、書籍「ティール組織」の中でそれほど大々的には取り上げられていませんが、書籍の端々で何度か書かれています。
会社の中で抑圧されて生きる人たちを見て、「こんなの人間の生き方じゃない。もっと人がのびのびと仕事をするにはどうしたらいいか」という問いを設定したのです。
そしてその問いから、大小さまざまないくつものアイデアを生み出し、実行していった。うまくいったものもあるだろうし、失敗したアイデアもあるでしょう。
考えてみてください。
○「どうしたら、社員スタッフが生き生きと仕事ができるのか」と問いを立てた時、「指示管理をしなければいい。それだけやればいいのか」と短絡的なアイデアは出てこないと思います。
将来、結果的に「指示管理をしない形」にはなりそうですが、最初のアイデアにはならないと思う。もっと細やかなアイデアが出るかもしれない。ゴミ箱の置き場所を変えたら、みんなが捨てやすくなる、というような一見つまらないアイデアも大事です。
あるいは、細々したアイデアばかりが出たとして、それを一生懸命取り組んでも「アイデアを出して、いろいろやってきた。けれど、細かな打ち手ばかりで、イマイチ組織が変わらない。みんないつまでも遠慮している」という状況にも陥るかもしれません。
そういう状況に陥っても方向性が分かっているから「もっとドラスティックに、組織を変えるにはどうしたらいいか」という新しい問いが生まれてくる。
そうして、新しいレベルのアイデアが生まれるのです。
これがポイントの1つ目です。「知識やノウハウも大事だけど、問いを持つことをもっと大事にする」です。
そして、2つ目のポイントは「意識の成長」です。
2つ目の鍵:意識の成長。
さきほど「問いを持つのが大事」と言いました。でも、
○「社員スタッフが、生き生きと働くにはどうしたらいいだろう」
こんな問いを、組織が変わるまで持ちつづけるのは、簡単なことではありません。
プロジェクトのキックオフの時にだけ「スタッフのために」と考えてもほとんど無意味で、理想的には四六時中、この問いを考えるようであるといい。つまり、フェイクではなく本心から、いい組織チームを作りたいと願えると言うことです。
あなたは、ティール組織に興味を持った時に「スタッフが自分で動いてくれるなんてラクだ」とか、「ティール組織は、儲かるらしい」と思いませんでしたか。
「生産性を上げる」とだけ考える人は、普段どうしても「無駄をなくそう」「スタッフを思い通りにコントロールしよう」という考えを持ってしまって、結果的にティール組織から離れた打ち手を打っていきます。
「スタッフを自分の思い通りにしよう」という考え方自体が、ティール組織を作る人の問いとは違うんです。もともとの「動機」や、「会社とは何か、というパラダイム」の問題です。
だから、打ち手を打ちながら、「意識の成長」を大切にすることが鍵になります。
ちゃんと成長成熟しないと、いつの間にか「自分の思い通りにしよう」と考えて、スタッフの存在に敬意を払えなくなってしまうからです。
では、意識の成長のためにはどうしたらいいでしょうか。
鍵は、「自分の心に寄り添うこと」でしょう。
例えば、一例ですが・・・
○「ティール組織を知った時に、自分はどんな風に感じたか」
○「本当のところは、建前でなく本心では、会社がどんな風になったらいいと感じているか。その考えは適切なのか。その考えの先に何が起こるのか」
などなどということについて、
自分の感じていることを、言葉にしていきます。
そうするともしかしたら、
○「自分はスタッフのことを、『彼らは単に未熟な存在で、自分が管理監督しなければ、仕事はうまくいかない程度の存在』と思っていること」や
○「自分はスタッフを、社会生活もまともに送れないポンコツだと思っていること」に気づいたりします。
ひどい言葉と思うかもしれませんが、あれもこれも管理しないとビジネスがうまくいかないと思っていると言うことは、スタッフのレベルをとても下に見ていると言うことでもあります。そして、その気持ちは「自己達成予言」のように、実現してしまう。
心の奥深くで信じている「恐れ」に気がつかないと。
そういう感覚を一つ一つ言葉にして気が付いて行くと、だんだん手放すことができるようになります。つまり、セラピーをビジネスに活用することで、マネジメントの問題が変化するということです。
「ビジネス・セラピー」。
コンサルティングでは、普段コンサルティングで行う会話を通してクライアントさんに影響を与えたり、正面からセラピーを行なって影響を与えることがあります。
経営者さん個人とやりとりすることもあるし、グループで感じていることをシェアしながら言語化することもあります。そうやって全体が感じていることに気づくことで、意識が変わっていきます。
もちろん、組織づくりのサポートをいくつか経験していますから、それなりに「こうしたらいい」というアイデアはありますが、それ以上に「問いを持つこと」その問いを持つために「意識の成長をすること」が鍵だと思います。