波佐見焼きの躍進と、有田焼の更なる可能性から学べることがあるならば、たとえば。

僕は学生の頃から”食器”が好きで、
大学生の一人暮らしの部屋で食器棚をおき
湯呑みやご飯茶碗を、いくつも並べてたのしむようなところがありました。

休みの日にはデパートのリビングフロアに行って、
「いいものはないかな」と、あちこちよく散策したものです。
素敵な食器で飲むお茶は、
たとえ安物でも、とてもおいしく感じました。
僕のつまらない料理も、違って見えます。

最近、といっても数年前からですが、波佐見焼きが人気です。
北欧のようなシンプルでかわいらしいデザインを取り入れ、若い人たちに売れているんです。
僕が学生の頃は、友人から「ホームセンターにいけば数百円で買える湯呑みに、お金を費やすなんて!」といわれましたが、あの頃とはずいぶん変わってきました。いいな。

波佐見焼きは、もともと有田焼の下請け(という言い方はなんだけれど)の、焼き物の産地の一つです。
波佐見で焼いた焼き物に、有田で絵付をしていました。
それが「有田で焼いて、有田で絵付したものしか、もう有田と呼ばない」と、有田焼の方針が変わり、新しく波佐見焼きブランドを作らなければいけなくなりました。

そこからまったく新しいデザインをつくり、今はもう日本にも世界にも広がっていったのは、本当にすごいことだと思います。深く長く考え、アイデアを出し、試行錯誤し・・・いろいろな努力があったと思うのですが、
そこには元々の波佐見焼のDNAを、「普通の人が、普段の生活で使いやすい食器を提供する産地」と定義していることも功を奏しているように思います。

「変わろう」とする時、
それまでの自分たちのDNAとまったく無関係なものには変わりにくいものです。
どこかで過去の自分達と地続きな方が座りがよく、変わりやすい。

その時大切なのは、「自分達は何者か」という定義でしょう。
もしも波佐見焼きの方々が、自分達を「有田の下請け」とだけ定義したら、柔軟なアイデアは出てこなかったと思いませんか?僕らは言葉に、ふりまわされるものです。
「自分達は、普通の人の普段の生活のために、使いやすい食器を作ってきた」
と定義できたから、今のライフスタイルにフィットしたデザインを取り入れたり、機能性を高めたりできたのだと思います。

もちろんここだけではありません。
でも、ここはとても大切な部分だと感じています。

じゃあ仮説として、今度はこういう変化を、有田のような、伝統的なアイデンティティがはっきりしている地域で起こすにはどうしたらいいか。そんなことを考えてみました。

有田焼に自由な気風を取り入れ、変えるには?

別に有田でなくてもいいのですが、トラディショナルで王道で、、、そんなイメージがあるので考えやすいですね。
伝統があるので「それが強み」ともいえますが、
でも、そうやってオーソライズされているからこそ、変化しにくい側面があるかもしれません。

僕がそんな有田をサポートするなら、こんなプロセスを経るかもしれない。
たとえば・・・

①新しいことに取り組みたい作家さんたちと、有田のDNAを再定義する。
きっとまず「有田が有田なのは、何があるからなのか」を、改めて決めます。
大事なところを抑えながら、ミニマムに再定義したい。
たとえば、「白い磁器に」「あの青、あの赤で絵付したもの」くらいシンプルにすると、自由な発想が生まれます。でも大事なところを押さえておけば、新たな作品がならなんだ時に、どこかに有田の伝統を感じることができる。そういう作品群になると思います。
もちろん、有田の方々と一緒に考えていきます。

②作家barを開き、定期的な交流をしながら、新しい作風にチャレンジしてもらう。
DNAを定義したら、新しい作風にチャレンジしてもらいます。
どれだけ想いがあっても、結構「とるにたらない工夫しかできない」ことはあります。なので、「どんな考え方をすると、人気のデザインを生み出しやすいか」を教えるかも知れません。「新しい有田」なんて、標語だけでは、お客さんは動きません。作家の想いは大切だけど、ひとりよがりではブランドは生まれない。
本当に「手に取りたい」「生活の中で使いたい」と思える物を作るチャレンジです。

それで次に、作家さんが集まる作家barを作って、交流を促します。
一人で考えると煮詰まりますが、人と関わることで、勇気づけられアイデアも生まれます。
人は人との関係で変わることができるのです。
ここには、各地のデパートのキュレターの方にも来てほしいし、若い頃の僕のような食器好きにも来てもらいたい。若い有田の象徴になるようなかっこいい場ができるといいなと思います。

③ブランドに、新しい名前をつけて広げ始める。
新しいブランドですから、そのまま「有田焼」という名前を使うことはないでしょう。少しだけ離れます。
少なくとも「有田焼blue rebel」みたいに、すこしは距離をとります。
それは伝統には敬意を払うためだし、伝統に気をつかいすぎて自由な気風を失ってしまうことを恐れるからでもあります。

そして”有田の若い人たちが、今の暮らしに合う食器を生み出した”という物語をつけて、広げはじめる。

こんなプロセスを経るのは、そのビジネスのDNAを活かしたいからだし、DNAはとても強い魅力を持っているからです。ただ言葉やデザインで表現するだけのブランディングではなくて、商品を生み出し、ゼロからブランド構築をした方がいいから魅力的で強いビジネスが生まれるからでもあります。

そして・・・こういった取り組みは、陶磁器ブランドだけでなく、普通のビジネスでも一緒です。
「ビジネスを変えたい。もっと素敵なビジネスに」
そういう方には、毎回変わるためのプロセスを考え、一緒に変化していきます。
素敵なビジネスを作るのは、いつも土台から感がることが大切でなので。

吉井